男人の苦:山田洋次特集

Yoji Yamada――山田洋次。
日本人の情感を描く映画監督。「喜劇の山田」、「庶民劇の名監督」と呼ばれる。また日本国内では、「日本人の心の代弁者」とも称されている。

(山田が籍をおく)松竹の先輩である小津安二郎、木下恵介、および他の名監督、たとえば、黒澤明や溝口健二たちと比べると、山田はどちらかというと地味な存在であり続けた。

しかしじつは、山田の作品は他すべての名監督の作品にひけをとらないくらい、いやそれ以上に日本人に愛されているのだ。

山田洋次。1931年日本大阪生まれ。2歳の時、父の仕事で家族全員満州に移住し、敗戦後一家で日本に引き上げた。東京大学法学部卒業後、松竹に入社。川島雄三、野村芳太郎、渋谷実などに師事。この頃から脚本も手がける。松竹ヌーベルバーグの中、大衆路線を進み、1961年『二階の他人』で監督デビュー。

これまで山田が世に送りだした77作品――そのなかには数え切れない名作が含まれているが、やはり一番の代表作はその40編を超えた大ヒットシリーズ・『男はつらいよ』だろう。

このシリーズは故・渥美清が演じる「寅次郎」の自由奔放な人生を描いた作品。1971年8作目から1995年の最終編まで、すべて日本の正月映画とお盆映画に指定されてきた日本でもっともポピュラーで、愛されつづけてきた映画シリーズである。このシリーズは、日本の経済高度成長30年間を背景としながら、街並みや家庭、人びとの価値観のうつり変わりを伝えてきた。

この70数作品を通して、山田は「庶民」にこだわり続けたように見える。『男はつらいよ』シリーズはもちろん、ほかの恋愛物語および最近の時代劇まで、作品の登場人物のほとんどが日本のどこにでも存在する(または存在した)「ふつうの人」である。山田はデビュー以来、一貫して映画の芸術性より娯楽性を追求し続け、自身の作品が「ふつうの人々に愛されること」を望んできた。

彼の作品の登場人物はみな、細かいことにくよくよせず、正義感にあふれ、心優しく、ユーモア豊かで、情け深く、ロマンチックである――これらはすべて、山田自身が代々日本人に受け継いでもらいたいとい願うものであろう。「男はつらいよ」とは言うが、山田作品のなかに登場する男たち女たちは、茶目っ気たっぷりで、ときには大胆、それでいて人一倍夢見がちな人物ばかりである。

8月4日に開催される第一回香港日本映画祭(HKJFF)は、この『男はつらいよ』もテーマ。1996年8月4日に死去したスーパースター・渥美清を偲ぶためのものでもある。彼の一生は「寅次郎」を通して日本人の心に刻み込まれており、そして彼自身も寅次郎の分身のようになっていた。彼の演じた寅次郎は山田映画の「一里塚」でもある。

第一回香港日本映画祭(HKJFF)は、『武士』、『家族』、『純愛』、『男はつらいよ』の4構成。山田の代表作品・10編を放映する。地味といわれた名監督を知ることで「時代の宝」を知る絶好のチャンスでもある。

企画.文:內野エスター